七十二候

七十二候は、二十四節気をさらに三つに分け、季節の移ろいをより細やかに伝える表現です。
春夏秋冬の中にある、ほんの数日間だけの小さな季節に、やさしい名前がつけられています。
自然の声を言葉にしたような、そんな七十二の時間を紹介します。

初候(2月3日頃~2月8日頃

東風解凍

はるかぜ こおりを とく

東から吹く春風が、凍てついた大地や水面の氷を少しずつ解かし始める頃。冷たさの中にもやわらかな気配が漂い、自然がゆっくりと目を覚ましはじめます。春の兆しが風に乗って運ばれてくる季節です。

次候(2月9日頃~2月13日頃)

黄鶯睍睆

うぐいす なく

春の訪れを告げるウグイスが、美しい声でさえずり始める頃。「ホーホケキョ」という澄んだ鳴き声が山里に響きわたり、寒さのなかにもやわらかな季節の兆しを感じさせます。静かな自然に、春の音がそっと重なり始めます。

末候(2月14日頃~2月18日頃)

魚上氷

うお こおりを いずる

冬の寒さが少し緩み、厚く張っていた氷のあいだから魚が姿を見せ始める頃。静まり返っていた水辺に、ふとした動きが戻り、春の兆しがひそやかに広がっていきます。生命の息吹が、透明な水の下から目覚めていく季節です。


初候(5月5日頃~5月9日頃)

蛙始鳴

かわず はじめて なく

冬眠していた蛙たちが目を覚まし、水辺で鳴き始める頃。夕暮れに響くその声は、春の深まりとともに自然界が活気を取り戻していることを知らせてくれます。田んぼや池から聞こえる合唱が、命の目覚めを感じさせてくれます。


次候(5月10日頃~5月14日頃)

蚯蚓出

みみず いずる

やわらかな土の中から、冬を越したミミズが姿を見せ始める頃。大地が温まり、目に見えないところでも生命の営みが動き出します。土を耕す小さな存在が、自然の循環を支え、春の息吹を静かに伝えてくれる時期です。


末候(5月15日頃~5月20日頃)

竹笋生

たけのこ しょうず

地中から竹の子が顔を出し、まっすぐに伸び始める頃。雨上がりの柔らかな土を押しのけて、ぐんぐんと成長する姿には、初夏の力強い生命の気配が満ちています。里山に賑わいと恵みをもたらす季節の訪れです。

初候 (8月8日頃~8月12日頃)

涼風至

すづかぜ いたる

立秋を迎え、吹く風にほんのりと涼しさが感じられる頃。日中の暑さは残るものの、朝晩の風がやさしく肌をなで、季節が静かに移ろい始めていることを教えてくれます。盛夏の中に、秋の気配がそっと差し込みます。

次候 (8月13日頃~8月17日頃)

寒蝉鳴

ひぐらし なく

ヒグラシが涼やかな声で鳴き始める頃。夏の終わりを告げるように、朝夕の森に響くその声は、どこか切なく、静かな余韻を残します。盛夏の喧騒が次第に落ち着き、季節が秋へと向かっていることを感じさせる時期です。

候 (8月18日頃~8月22日頃)

蒙霧升降

ふかききり たちのぼる

朝夕の気温差が大きくなり、地表から白い霧が立ちのぼったり降りたりする頃。ぼんやりと景色を包む霧は、夏の終わりと秋の始まりをやわらかくつないでくれます。静かな朝の風景に、季節の移ろいがそっと滲みます。

初候 (11月7日頃~11月11日頃)

山茶始開

つばき はじめて ひらく

山茶花(さざんか)がひとつ、またひとつと静かに花を咲かせ始める頃。冷たい風にゆれる淡紅の花びらが、冬の訪れをそっと告げます。落ち葉のなかに凛と咲く姿は、季節の静けさと強さを感じさせます。

次候 (11月12日頃~11月16日頃)

地始凍

ち はじめて こおる

朝晩の冷え込みが強まり、大地の表面がうっすらと凍り始める頃。霜が降り、地面がきゅっと引き締まるような冷たさに包まれます。足元から冬の気配が立ち上がり、季節が確実に進んでいることを感じさせます。

末候 (11月17日頃~11月21日頃)

金盞香

きんせんか さく

冬を彩る水仙の花が香り立つ頃。凛とした白い花びらと、金盃のような黄色の中心が、寒さのなかに清らかな美しさを添えます。澄んだ空気に漂うやさしい香りが、静かな冬の訪れを告げてくれます。